2023/02/25 09:10:20
生命保険の一時金申告で仮装隠蔽の課税処分の取消
生命保険金に基づく一時金等を所得に含めずに確定申告した行為は仮装隠ぺいに当たるかが争われた事案で、審判所は、当初から過少申告を意図し、外部からもうかがい得る特段の行動をしたとはいえないとして、課税処分を取り消しました(令和4年4月15日裁決)。
納税者Xは、生命保険契約に基づく一時金等を受領しました。生保会社からは一時所得等となる旨の通知や支払明細等を送付していましたが、Xはその通知等を廃棄し、所得税等の確定申告では一時金等を含めずに申告しました。税務調査でこのことが発覚し、原処分庁はXの行為を仮装隠ぺいとして重加算税の賦課決定処分を行いました。Xはこの処分を不服として審査請求に及んでいました。
原処分庁は、Xが一時金等の課税に係る通知や支払明細等を破棄したことは、当初から所得を過少申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと主張しました。これについて審判所は、Xは過去5年中1度しか確定申告を行っておらず、当該年分についても、たまたま金地金の売却に係る譲渡所得があったために申告を行ったのであり、税務の知識があったとはいえないこと、確定申告の時点で本件一時金等の存在や申告の必要性を認識していたとはいえず、支払明細等も意図的に破棄したとは認められないことから、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとは認められないと判断しました。重加算税の賦課決定処分を取り消しました。
重加算税の課税の要件として、仮装隠蔽があります。納税者の内心を客観的に判断することになる場合もあると思います。充分に慎重に手続きを進めていただきたいです。
2023/01/23 09:40:06
NISAの拡充と高所得者も「一億円の壁」の是正
与党大綱に続き、昨年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱を見ると、所得税関係では、NISAを抜本的に拡充したうえでの恒久化、高所得者になると税負担率が低下する「1億円の壁」を極めて高い水準の所得層で是正する措置が盛り込まれました。
NISA制度(少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置)は口座開設期間も非課税保有期間も期限のない恒久的な措置として、(1)一定の投資信託を対象とする長期・積立・分散投資の年間投資上限額(つみたて投資枠)を120万円に拡充、(2)上場株式への投資が可能な現行の一般NISAを引き継ぐ「成長投資枠」の年間投資上限額を240万円に拡充します。
(1)と(2)は併用可能とし、一生涯にわたる非課税限度額は1,800万円までで、うち「成長投資枠」は1,200万円までです。令和6年1月から新制度に改組されますが、令和5年12月31日までに現行のNISA制度で投資した商品は、新制度の外枠において、現行制度の非課税措置を適用することができます。
極めて高い水準の所得に対する負担の適正化については、株式や不動産の売却益や給与などを合算した「合計所得金額」から3億3,000万円を差し引いた額に22.5%の税率をかけて算出します。算出した金額がその年分の所得税額を上回る場合には、差額分を追加で課税します。追加負担は徐々に増え、所得金額が50億円になると今より2%から3%程度の追加負担となります。令和7年分の所得税から適用されます。
NISAの枠が拡充される予定です。つみたて投資枠が120万円ということは、月10万円ですか? 庶民が余剰金月10万円あるでしょうか。しっかり稼がないといけませんね。
また、一億円の壁について、庶民からかけ離れた金額です。庶民はあまり影響なさそうです。高額所得者の皆様には、切実かもしれません。これで、生前贈与や株式・不動産を売却するタイミングなどの工夫が必要となりそうです。
2022/12/21 17:58:23
消費税インボイス制度の緩和策
自由民主党税制調査会(宮沢洋一会長)の資料によると、消費税インボイス制度の令和5年10月導入に併せて、免税事業者の負担軽減措置が令和5年度改正で実施される模様です。
一つは消費税の納税額を売上税額の2割に軽減する激変緩和措置です。インボイス制度の開始から令和8年9月30日の属する課税期間までの3年間、基準期間(前々年・前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の免税事業者がインボイス発行事業者を選択して課税事業者となる場合に対象とします。業種に関係なく、売上と収入を把握するだけで消費税の申告ができることから、簡易課税制度よりも、事務負担が軽減されるもようです。事前届けも不要とする見込みで、申告時に選択適用ができる仕組みです。
もう一つは、課税売上高1億円以下の事業者は6年間、1万円未満の課税仕入れについてインボイスがなくても帳簿のみで仕入税額控除を認めるというものです。基準期間における課税売上高が1億円超であっても、前年や前事業年度開始の日以後6か月間の課税売上高が5,000万円以下である場合は対象とする見込みです。また、事業者の実務に配慮して事務負担を軽減する観点から、1万円未満の少額な値引き等については、返還インボイスの交付を不要とする措置も同時に実施される模様です。
もっともっと中小事業者のために恒久的な緩和策を講じていただきたいと思います。しかし、あまりやるとインボイス制度が骨抜きになることを懸念されているのかもしれません。
そして、もう一点、現状のインボイス制度は、未だシンプルですが、いろんな改正のあげく、いつもの通り、複雑怪奇なものには、されないでください。よろしくお願いいたします。
2022/11/23 11:48:52
相続税の生前贈与加算の期間延長について改正か?
相続税・贈与税のあり方を見直すため、政府税調が設置した専門家会議(座長は増井良啓 東京大学大学院教授)での議論が始まっています。第2回会合では、選択制となっている贈与税の課税方式や、資産移転の時期の中立性などの観点から意見交換が行われました。
贈与税の課税方式については、暦年課税を選択した場合には死亡前3年以内の贈与のみ相続税として加算され、それ以前の贈与には相続税よりも税率の高い贈与税の税率が課されるために税負担が大きく異なり、資産移転の時期に中立的でないといった指摘がされているところです。
こうした問題提起を受け、第2回会合では、暦年課税において相続時に加算される死亡前3年の期間を延ばすべきといった意見が多く出ました。延長期間については、学者側から「10年ほど」と具体的な数字も出されましたが、会合メンバーの税理士会側からは「5年ぐらい」が妥当との声とに分かれました。また、「期間を延ばす場合には移行期間を設けるべき」との指摘もありました。さらに、2,500万円の控除額を超える贈与に対して一律20%の低税率でありながら、贈与した財産はその時の時価で相続財産に持ち戻される相続時精算課税制度について、使い勝手の向上を求める声が相次ぎました。
与党の税制調査会では5年度の税制改正大綱取りまとめに向けた作業が始まっており、政府税調は贈与税の見直しについても大綱への反映を目指しています。
この議論は、よく耳にします。しかし、実務上は、生前贈与加算の期間が長くなると確認の作業が大変です。中には、不可能なケースもあるでしょう。被相続人はお亡くなりになっておられますし、相続人等の皆さんの中には高齢の方もおられ、覚えているか定かでない場合、どうすればよいのかわかりません。制度設計において、うまい落としどころが必要だと思います。
2022/10/31 15:49:33
副業収入300万円以下を雑所得とするパブコメ案撤回
異例の7,059通にものぼるパブコメ意見が寄せられた雑所得を例示する改正所得税基本通達は、事業所得か業務に係る雑所得等かの区分判断について、記帳・帳簿書類を保存しているかどうかで整理することで落ち着きました。パブコメ案の副業に係る収入金額300万円基準により所得区分を判定することに多くの反対意見が寄せられたこともあり、国税庁は大幅な修正を強いられる結果となりました。
パブコメ意見とそれに国税庁の回答を順にみていくと、主たる所得か否かを基準とすることについては反対意見が相次ぎました。真っ向から「本業か副業かで所得区分を判断すべきではない」との否定や、「どのような所得が主たる所得に該当するのか不明確」「開業届が提出されているのであれば、副業であっても、事業所得と取り扱うべき」と否定的な意見が集中しました。さらには「フリーランスの場合は、契約形態によって所得区分が分かれる場合がありますが、この場合、主たる所得はどうなるのか」「真面目に記帳等をしている者は、収入金額300万円以下の副業であっても事業所得と取り扱うべきではないか」といった疑問の声もありました。
さすがにこうした多数の声を無視するわけにいかず、国税当局は、ご意見を踏まえ、主たる所得かどうかで判定するという取扱いを撤回するとして、「所得税法上、事業所得者には、帳簿書類の保存が義務づけられている点に鑑み、帳簿書類の保存の有無で所得区分を判定すること」へと変更します。この修正により、収入金額が300万円以下であっても、帳簿書類の保存があれば、原則的には、事業所得に区分されることなります。(例外もあります)
パブコメ意見の力は、大したものですね。この300万円の基準は、かなり荒っぽい形式基準だと思います。なかなか、ある一定の基準で、事業活動の中身について評価するのは、難しいです。事業活動であることを客観的にうまく定義できないですね。庶民の生活の知恵は、許容範囲として頂けないでしょうか。