2016/09/23 15:21:01
配偶者控除の見直し 平成29年度改正の方向性
実効税率20%台を実現した法人税改革に代わり、長年の課題だった配偶者控除見直しを含む所得税改革が、29年度税制改正の主要課題になる見込みです。9月9日の第1回政府税調で議論の口火が切られ、間もなく与党税調でも各府省庁からの要望項目の検討が始まりますが、盤石な与党体制が実現した今、29年度税制改正大綱では、主要課題の所得税改革についても何らかの改正案や方向性が示される可能性が高いです。
配偶者控除見直しは、これまで政府税調が議論をリードしてきました。26年11月時点で廃止を含む5つの選択肢が示されましたが、消費増税を前に所得税でも増税する案は打ち出せず、先送りとなりました。だが、ここに来て、女性活躍を推進する政府の方針を追い風に、パートが就労調整する「103万円の壁」をなくすための見直し論が浮上しています。
5つの案の中では、単純に増税する廃止案は現実的ではなく、(1)配偶者の所得計算で控除しきれなかった基礎控除を、納税者本人に移転する「移転的基礎控除」と、(2)夫婦世帯を対象とする夫婦控除が検討される見込みです。2つの比較では、パート世帯が増税となるほか、配偶者の税率が低い場合、配偶者が基礎控除を受けるより納税者本人が移転的基礎控除を受けるほうが有利となり、配偶者の就労を抑制する(1)より、配偶者の収入に関係せず、働き方の選択に中立的な(2)の夫婦控除が有力です。ただし、個人単位の課税から世帯単位への課税に舵を切ることにもなりかねず、所得税全体で丁寧な議論を積み重ねることが望まれます。
配偶者控除が改正されると、国民の生活スタイルや家族のあり方まで影響がでそうです。 遺言の相続税の減税もそうですが、日本人の昔ながらのそしてプライベ−トな所を、税金というお金勘定で左右することに、不安を抱きます。
しっかりした議論が必要ですね。
2016/08/22 15:10:39
相続関係の民法等改正の中間試案のパブリックコメント
法務省はこのほど、法制審議会民法(相続関係)部会がまとめた「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」をパブリックコメントに付し、9月30日まで意見募集しています。
中間試案のうち遺産分割をみると、配偶者の相続分の見直しの方向性として、一つは被相続人の財産が婚姻後に一定の割合以上増加した場合に、その割合に応じて配偶者の具体的相続分を増やす案です。婚姻後増加額(遺産から被相続人の婚姻時の財産を控除した額)には配偶者の貢献が高いとみて法定相続分より高い割合を乗じる一方、遺産から婚姻後増加額を控除した額には法定相続分より低い割合を乗じて、両者を足した額が現行の配偶者の具体的相続分を超える場合には、配偶者の申立てにより、その超過分を配偶者の具体的相続分に加算できるというものです。
もう一つは、婚姻成立後、20年又は30年経過した場合に、(1)一定の要件(例えば当該夫婦の届出)のもとで、又は(2)自動的に法定相続分を増やすという案です。具体的な増加後の法定相続分は、子及び配偶者が相続人であるときは配偶者の相続分を「3分の2」、配偶者及び直系尊属が相続人であるときは配偶者の相続分を「4分の3」、配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは配偶者の相続分を「5分の4」に増やすものです。
その他、自筆証書遺言の方式緩和として、財産の特定事項は自書でなくてもよいとすることや、相続人以外の者が被相続人の療養看護等を行った場合に一定の要件の下で、相続人に対して金銭請求することができるようにするなども盛り込まれています。
相続関係の民法等の改正は、みなさんの生活に直結します。 注視していきましょう。
2016/07/22 14:05:04
相続税の申告での誤りやすい事例
国税庁は、平成27年1月以降の相続等から基礎控除を引き下げるなどして課税対象が広がったことへの対策として、簡易な計算で課税対象か否かを判定するシートや適用件数の多い配偶者軽減特例や小規模宅地特例の記載例、申告書作成時の誤りやすい事例集を随時公表してきましたが、平成28年に入ってからこれらツールを更新しています。
このほど更新した「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集(平成28年分用)」を見ると、(1)相続税の2割加算について、被相続人からみて2親等の兄弟姉妹や孫養子(代襲相続人を除く。)を入れない誤りや、(2)基礎控除を計算する際の養子は実子がいる場合は1人しか法定相続人に入れられないこと、(3)みなし相続財産の生命保険金は払戻しを受けた前納保険料を含むこと、(4)被相続人以外の名義預金でも被相続人が拠出していた場合や準確定申告に係る還付金なども相続財産になること、(5)相続財産から控除する葬式費用や債務について、被相続人が生前に購入したお墓の借入金は債務控除の対象とならないこと、(6)相続開始3年前の生前贈与財産について、暦年贈与の基礎控除額の110万円以下でも対象になること――など、それぞれ正誤の記載例を掲載しています。名義預金など相続税の税務調査で判明する例も多いが、相続税の申告書作成を委任される税理士も参考となります。
相続税の申告は、一般の方は、一生のうち数回しか経験されません。 税制改正などを考えると、ミスが出やすいものです。税理士(専門家)にご相談ください。
2016/05/24 08:38:42
純資産価額方式の法人税額等相当額の割合の引き下げ
平成28年度税制改正の法人税率の引下げなどにより、法人実効税率が下がるのを踏まえて、国税庁は、平成28年4月1日以後に相続等により取得した取引相場のない株式等を純資産価額方式で評価するときの法人税額等相当額の割合を「38%」から「37%」に引き下げることを明らかにしました。財産評価基本通達の一部改正(平成28年4月6日付)により見直すもので、取引相場のない株式等の評価明細書の様式についても同様の改正が行われています。
周知のとおり、取引相場のない株式等の相続税評価については、評価する株式を発行した会社を、従業員数や総資産価額、売上高により、大会社・中会社・小会社のいずれかに区分して評価するのが原則で、純資産価額方式は、原則、小会社が適用することになっています(中会社は類似業種比準との併用)。
この純資産価額方式では、評価した総資産の価額から、負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価するとしているが、法人税額等相当額は、国税の法人税(地方法人税を含む)、地方税の事業税や道府県民税及び市町村民税の税率の合計に相当する割合なので、今回の法人実効税率の引下げが影響します。法人税率の引下げは平成28年4月1日以後の開始事業年度から適用されるので、相続税評価においても同日以後に相続等した取引相場のない株式等から適用されることになります。
法人税等の税率の引き下げは、相続税の現場でも影響を与えています。ちなみに、法人税額相当額が小さくなると、株価評価額は大きくなります。
2016/04/27 17:29:30
信託にいての訴訟の紹介
近年、家族信託などの信託が身近になっております。信託に関係する判決をご紹介します。
滞納した固定資産税に充当するため、滞納者を受託者とする信託財産である土地の賃料を含む賃料債権の全てを差押えした彦根市の処分について、最高裁はこのほど適法であるとの判断を下し、滞納者の訴えを棄却する判決を言い渡しました(平成28年3月29日第三小法廷判決・平成26年(行ヒ)228号)。
本件は、彦根市長が固定資産税を滞納している者を受託者とする信託財産である土地と、その上に建てられた滞納者所有の家屋等を含めた土地・家屋に係る賃料債権の全体に対して差し押えたことから、その滞納者がこの処分を不服として市を相手に訴えた事案です。1審では市が勝訴したものの2審で敗訴し、最高裁に上告していました。
最高裁は、信託法に定めるとおり、原則としては信託財産とその果実である賃料債権を差し押さえることはできないものの、旧信託法28条が信託契約の受託者は信託財産を固有財産と他の信託財産とに分別管理することを要する旨を規定していることなどから、本件土地の賃料相当額部分と本件家屋等の賃料相当額部分とに区分されるものと解するのが相当と判断しました。したがって、本件土地とその上に建てられた家屋等に係る賃料債権の全てをいったんは差し押さえ、そのうち家屋等に係る賃料相当部分を本件土地の滞納固定資産税に充当することは何ら法律に反するものではないと判示し、市の差押え処分を適法としました。
少しややこしいですが、今後、こんな案件が増えると思います。