2021/06/23 19:41:12
教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税非課税の改正
国税庁はこのほど、令和3年度税制改正による期限の延長と課税強化に合わせて、「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし」を新たに公表しました。祖父母など直系尊属からの教育資金一括贈与の非課税制度は、適用期限が令和5年3月末まで2年間延長されたものの、贈与者が死亡した場合の残高は相続税の課税対象になるとともに2割加算の対象とする課税強化が行われています。
「あらまし」によると、契約期間中(信託等をした日から教育資金管理契約の終了の日までの間)に贈与者が死亡した場合、贈与者が死亡した旨を取り扱う金融機関等の営業所に届け出する必要があり、令和3年4月以降に非課税制度の適用を受ける人はもちろん、既に平成31年4月1日から令和3年3月31日までの間に非課税制度の適用を受けた人も、令和3年4月以後に教育資金として拠出する分は、その死亡の日までの年数にかかわらず、受贈者が23歳未満などの一定の場合を除いて、その管理残額を、その受贈者がその贈与者から相続等により取得したものとみなされることになります。
しかも、その受贈者が贈与者の子以外(孫など)の者である場合は、その贈与者の管理残額に対応する相続税額について、相続税額の2割加算の対象となります。「あらまし」にはこれらの適用関係と管理残額の計算方法を示しており、既に同制度を利用している納税者も令和3年4月以後の拠出には注意したいところです。
この税制は、創設当初は、制約がすくなく、使い勝手の良いものでしたが、あれよあれよという間に、課税のメスが入ってしましました。お客様にも勧めやすかったのですが、今後はしっかり説明します。
2021/06/01 10:26:23
泉佐野市の交付税減額訴訟
ふるさと納税により多額の寄附金を泉佐野市が得たことを理由に、総務省が同市への特別交付税を減額したのは違法であるとして、市が総務省に対してその取消しを求めた訴訟で、大阪地裁はこのほど、市の主張を認め、「法律上の争訟にあたる」とする中間判決を言い渡しました(令和3年4月22日・令和2年(行ウ)第66号)。これにより、特別交付税の減額が違法か否かなどの具体的な争点については、今後審理されることになりました。
総務省は、本件については、具体的な争点を審理する前に、特別交付税額の決定をめぐる不服申立ては行政内部で解決すべきものであり、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないなどと主張しました。裁判所に訴えの却下を求めていたが、裁判所は「地方交付税法に訴訟提起を認めないという明確な規定はない」などとして総務省の主張を斥けました。一方、泉佐野市の訴えは「自治体の具体的な権利や法律上の利益に関する紛争にあたる」とし、裁判で争うことのできる事案であると判断しました。
泉佐野市はふるさと納税で多額の寄附金を集め、財政的に余裕があるとして、総務省は同市の令和元年12月と翌2年3月分の特別交付税を前年度から約9割減額しました。まさに「江戸の敵を長崎で討つ」かのような「懲罰の意図がある」として市が訴えた格好です。
ふるさと納税をめぐっては、周知のとおり、過去の寄附募集の方法に問題があったとして総務省が泉佐野市を含む4団体を制度から除外し、同市がその違法性を訴えた訴訟で最高裁が令和2年6月、国の除外決定を取り消す判決を言い渡しています。ふるさと納税訴訟と関連がないとはいえない本訴訟の今後の動向が注目されます。
今後の争点など注目です。
2021/05/23 16:37:29
食券の取扱いを追加
国税庁はこのほど、「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」に新たな設問を2つ追加し、在宅勤務者に対する食券(食事代)を負担した場合の取扱いを明らかにしました。FAQは今年1月の緊急事態宣言の発令に伴い、従業員に在宅勤務手当や在宅勤務時のパソコン使用や通信費等を支払う場合の課税関係を示したものです。
今回追加されたのは、食券の支給について。問8は、在宅勤務者の昼食の補助として会社が契約した特定の飲食店で飲食又は持帰りに利用できる食券を支給するケースで、それ以外の食事の支給はない状況です。結論からいうと、企業が従業員に食事の支給をする場合に、その食事の価額50%相当額以上、かつ企業の負担額が月額3,500円(消費税等の額を除く)を超えないときは、その従業員が食事の支給により受ける経済的利益はないものと取り扱われます(所得税基本通達36−38の2)。つまり、給与課税の必要はないです。同通達の「食事の支給」とは、契約業者から購入した弁当や社員食堂で食事を提供すること等をいうものですが、会社が契約した飲食店を前提に在宅勤務者に食券を支給する場合も容認しました。
問9は問8の応用で、在宅勤務日には食券、出勤日には契約業者から購入した弁当を提供するケースです。こちらも、従業員から食券の額面金額及び弁当の価額の50%相当額以上を徴収し、消費税等の額を除いた企業の負担額が月額3,500円を超えなければOKです。月額3,500円を超えた場合には、その月中に支給した企業の負担額の全額について、従業員に給与課税する必要がある点には注意したいところです。
事業主が従業員に良かれと思って食事を提供した場合に起こる事象です。税務調査で否認されると、忍びない気持ちになります。知っておきましょう。
2021/04/22 09:06:54
低解約返戻金型逓増定期保険の評価見直し
いわゆる節税保険を規制するものとして、「定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い」が法人税基本通達に新設されてから2年も経たないうちに、法人契約の低解約返戻金型逓増定期保険の評価を見直すために同通達が改正されることになりそうです。その名のとおり、前半の数年間は返戻金が低く抑えられ、後半になって返戻金が逓増していくタイプです。
今年のGW前後に改正案がパブリックコメントに出され、1か月程度の意見募集後、6月中にも改正通達が出される見込みです。
今回、低解約返戻金型逓増定期保険が国税当局に問題視されているのは、法人契約そのものより、次の手法についてです。まずは(1)法人が契約後数年間、年間保険料を支払います。その間の解約返戻金の額は低く設定したものとし、(2)低い解約返戻金の期間のうちに契約者を法人から経営者個人に名義変更します。(3)その後、一回程度、個人として保険料を支払い、(4)返戻金が逓増の局面に入ったところで解約するというものです。この時点で個人が受け取る解約返戻金の額は大きく跳ね上がっています。いわば、法人契約時代の節税効果を「いいとこどり」するというものです。
現在、想定される見直しの方向は、解約返戻金の額が法人の資産計上額の70%未満となるケースで、評価額の計算方法を見直す模様です。
既存契約について、これから経営者個人に名義変更をしようとしている場合には、どうなるのかなど注目したいところです。
2021/03/22 10:02:05
所得拡大促進税制の改正
中小企業が適用できる所得拡大促進税制は、令和3年度税制改正により、制度創設当初における前年度の雇用者給与等の総額と比較して一定割合増加した場合に税額控除ができる制度に戻ります。前期からの継続雇用者の給与等支給額を比較していた改正前の制度では継続雇用者を的確に抽出して判定するのに手間がかかり、適用機会も狭められていましたが、今回の改正により中小企業は適用しやすい仕組みに代わります。適用判断を誤り、税理士損害賠償事故になるケースも少なからずあったため、税理士にとっても朗報です。
ところで所得拡大促進税制について、大企業は、令和3年度改正により、新規雇用者給与等支給額の増加割合で判定する人材確保等促進税制へと代わり、中小企業の制度とはその趣旨が異なるものとなります。もちろん、中小企業が大企業向けの税制を選択してもかまいませんが、適用しやすくなるのは圧倒的に令和3年度改正による中小企業の制度のほうです。
改正前後を新旧比較すると、1点目は継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が1.5%以上とする要件を、雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合によって判定することになります(税額控除率は15%)。
同様に税額控除率が10%上乗せされて25%となる要件についても、前年度の雇用者給与等支給額に対する増加割合が2.5%以上となればOKです。加えて、教育訓練費要件を満たすか、令和3年度改正のM&A税制の対象となる場合には、経営力向上の証明があれば上乗せ措置が受けられます。
所得拡大促進税制は、特に、中小企業にとって、手助船のような制度です。適用要件が簡単になれば、事業者にとって大変ありがたいことです。