2019/08/28 14:30:10
配偶者居住権や遺留分侵害額請求などの税務上の取扱い
民法・相続分野の改正を踏まえた課税関係について、国税庁は、配偶者居住権が合意で消滅した場合にはみなし贈与課税する一方で、配偶者死亡による消滅には課税が発生しないこと、特別寄与料が支払われた場合の取扱いを相続税法基本通達に新設したほか、本年7月に遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求へと改正されたことに伴う資産移転には譲渡所得の課税が発生することを所得税基本通達に新設しています。
配偶者居住権の消滅については、配偶者居住権を取得した配偶者と配偶者居住権の目的となっている建物の所有者との間の「合意」若しくは配偶者による「配偶者居住権の放棄」、建物所有者による「消滅の意思表示」により消滅した場合の課税関係が通達化されています(相続税法基本通達9−13の2)。消滅した際に建物所有者や建物敷地の所有者が対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を払ったときは、原則、消滅直前の配偶者居住権の価額に相当する利益等を、配偶者から贈与されたとして課税されます。
これに対して、配偶者居住権の期間満了や配偶者死亡による使用貸借の終了、賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了に伴う配偶者居住権の消滅にはこの取扱いがないとしており、課税関係が発生しないことが明記されました。つまり、配偶者死亡の二次相続では配偶者居住権は評価されないため、自動的に一次相続より評価額が下がることになります。相続税対策として配偶者居住権が活用されることが見込まれます。
また、本年7月1日に施行された改正民法により、遺留分減殺請求から遺留分侵害額という金銭債権の請求に代わったことに伴う課税関係は所得税基本通達の譲渡所得関係で明確化されています。
具体的には、民法1046条1項による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合に、(本来の)金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部を履行するために資産の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行時にその履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなるという取扱いが新設されました(所得税基本通達33−1の6)。この場合、譲渡による収入金額は、遺留分侵害額にかかる債務の消滅額となるわけです。
これに対して、遺留分侵害額の請求を行い、金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産の移転を受けた者は、原則、その履行時に消滅した債権の額に相当する価額により当該資産を取得したことになります(所得税基本通達38−7の2)。この価額が移転を受けた資産の取得費となるわけです。
配偶者居住権や特別寄与料や遺留分侵害額請求などは、民法の新しい規定です。まだ、国民になじみがなく、周知が必要です。税務上も新しい取扱いとなるため、慎重かつ丁寧に対応してまいります。